side_b 観て、聴いて、読む。

HOME / リンクはご自由に

「ミスティック・リバー」、あるいは「利己的な愚か者の悲劇」。

ミスティック・リバー

DVD:「ミスティック・リバー」

(クリント・イーストウッド監督)
●名作との呼び声高いクリント・イーストウッド監督の新作はデニス・ルヘイン原作に基づく現代アメリカの悲劇。監督によれば「アメリカン・シェイクスピア」ということで、確かに手ごたえ十分の本格派、役者も最強である。しかしこの物語、受け止め方が難しい。
●ネタバレしない程度に言うと、これは「利己的な愚か者どもが集って起きた悲劇」を描いている。というのは、幼なじみの3人が大人になってどういう人物になったか。一人は裏街道を突っ走って刑務所の世話になり今は小さな雑貨屋を営む小悪党。もう一人は不幸なトラウマを背負ったがために十分な社会性を身に付けられなかった恵まれない白人。あとの一人は唯一まともな職を手に入れたが、幼なじみとの再会にあたって常に安全な場所に立って視線を下に向ける、情の薄い人物。要するに、観客が全面的には共感できないような嫌な人物ばかりなのである。それぞれにタイプは異なるが、いずれも他人への敬意を欠き、猜疑心が強く、自分と自分の家族ばかりの利益を考えている(そして彼らの家族がまた輪をかけて利己的なのだ)。そういう意味ではこれを「現代アメリカの悲劇」と呼ぶのは的確な表現かもしれない。
●子ども時代の友情が大人になってああなるのはリアリズムである。リアリズムであるがゆえ、ワタシたちにはこの嫌な人物たちを非難する資格がない。家族を守るという偽りの正義を掲げて罪を犯す姿は醜悪だが、「利己的な愚か者」ほど誰もが陥りやすい罠もない。(2004/02/03)

>> CLASSICA >> Side_B HOME