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偏屈オヤジの理想郷はいずこ。レズニックの「キリンヤガ」



「キリンヤガ」

(マイク・レズニック/ハヤカワ文庫SF)
●マイク・レズニックの「キリンヤガ」(ハヤカワ文庫SF)読了。キリンヤガとは絶滅に瀕したケニアの部族キクユ族のために作られたユートピア世界。その楽園の純潔を護る祈祷師が主人公のオムニバス長編。
●ユートピア小説といっても、たとえばこういうありきたりのものではない。すなわち、主人公の少年がある日ユートピアなるものに疑問を持つ→ユートピアと呼ばれるものが実はディストピアであることに気づく→(概ね管理社会である)ユートピアと戦い、人間らしい多様な価値観を持つことを許された社会の建設へ歩みだす。そういう成長の物語にあらず。
●まず主人公はユートピアを建設する老人。祈祷師という形でユートピアの権力者となり、その価値を決して疑うことはない(というのが本作品の執筆依頼上のルールでもあった)。彼の葛藤は、どのような世界を作るべきかつうことよりも、いかに楽園の価値を人々に理解させるかにある。必然的に、ユートピアの実現という行為に対する両義性みたいなものが、常に物語の中心的なテーマになってくる。となると、世界が崩壊の危機にさらされるのは読みはじめた時点で分かってる(それしかない)。どうしても意外性に欠ける平板な物語になってしまうが、それでもおもしろく読めたのは現実のケニアをもとに創作されたキリンヤガ文化の新鮮さと語り口のうまさゆえか。伝統的価値観と進取の気性のせめぎあいみたいにとらえちゃうとつまらない。
●部族の神の復活と死の物語……なんだが、挿入される動物寓話が一番おもしろかったりして(笑)。象好きならラストシーンは涙なくして読めないこと確実(なんだそりゃ)。オススメ。(1999/05/26)

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